豪華絢爛な劇場には、色とりどりのドレスを着た夫人や令嬢、宮廷服に身を包んだ殿方たちが集まっていた。

 真夏の夜に開かれるオペラは、貴族にとって娯楽であり大事な社交場でもある。
 楽しそうに会話を弾ませていた観客の視線は、時折、二階のボックス席へと動く。

 そこにいるのは、薔薇の花びらのような深紅色のドレスを身にまとった、気高くも麗しき令嬢――マリアヴェーラ・ジステッドだった。

 マリアは、雑多に送られる視線の矢を浴びながら、父親のジステッド公爵と並んで椅子に座っていた。
 中央の特等席を見ると、めかし込んだアルフレッドとレイノルド、そして聖女ネリネの姿があった。
 アルフレッドは赤、レイノルドは青の装い。
 ネリネの白いドレスは袖にボリュームがあり、遠目からでも分かる金の刺繍がこれでもかと入っている。劇場では、舞台上の役者より派手な格好はご法度だというのに、ずいぶんな目立ちたがりだ。

(王妃殿下が手を焼くわけだわ)