わずかに開いた窓から、涼しい夏風が吹き込んできた。だが、マリアの二の腕を粟立たせたのは、恨みをつのらせた王妃の顔つきの方だった。

「ネリネさんはね、国王陛下が地方を視察された際に、拾ってきた子なの――」

 貧しい村で休憩した国王一行は、土にまみれて遊んでいた幼ないネリネに「これから嵐が来るよ」と話しかけられた。
 無視して進んだところ、崖沿いの道に入るすんでのところで黒雲が見えた。

 馬を止めると突風が吹き、巨大な岩が降ってきて道に埋まった。
 もしも嵐の兆候を見逃していたら、国王は馬車もろとも岩に潰されていただろう。

 急いで村に戻った国王は、ネリネを命の恩人として城に連れて行くと決め、彼女を育てていた古宿の主人と女将に、たくさんの褒美を授けた。

(それは、国王を宿に泊めるための嘘だったのでは……?)