マリアは、もう一方のカップを持ち上げると、そちらにも口をつけて飲みこんだ。
 それに驚いたのは王妃だ。瞳を見開いて、怪訝そうに表情を歪める。

「マリアヴェーラさん、なぜ両方とも飲んだのです?」
「どちらも王妃殿下がわたくしに出してくださった紅茶です。ジステッド公爵令嬢として、口をつけないわけには参りません。それに……たとえ自白剤入りでも構わないと思いました。わたくしとレイノルド様は、不純なお付き合いなんて一切しておりませんもの」

 片方を選んで、もしもそちらが自白剤入りではなかったら。
 王妃は、マリアの勘の良さを腹立たしく感じるだろうし、一夜の過ちの疑惑は晴れない。
 聖女ネリネがもたらした破滅の預言によって、マリアへの期待が下降の一途をたどっている今、恐るるべきは自白させられることより、心証が悪化することなのだ。

(それなら、わたくしは両方、選んでみせるわ)