マリアは、純銀のティースプーンを持ち上げて、両方のカップに砂糖を入れる。
 青酸毒などが入っていれば、銀は変色するものだ。しかし、反応はない。

(自白剤は、銀に反応する薬物ではないようね)

「マリアヴェーラさん、そんな風にもったいぶっていると、紅茶が冷めてしまうわよ?」

 王妃の笑みが怖い。
 自分より上位の貴族――当然、王家がそのトップに君臨する――から勧められた紅茶は、必ず口をつけるのが令嬢としてのマナー。
 断ることは、ジステッド公爵令嬢には許されない。

(どちらが自白剤入り? 右か、左か……)