だが、王子を椅子で寝かせて、自分はのうのうとベッドを占領するなんて、ジステッド公爵家の令嬢としてあるまじき失態だ。
 あと、単純に寝顔を見られたのが恥ずかしい。

 手で顔をおおって身もだえしていると、キイと扉の開く音がした。

「うわ。マジだった……」

 姿を現わしたのは、ヘンリー・トラデス子爵令息だった。
 レイノルド、マリアと同期の学園卒業生である。元は第一王子の護衛をしていたが、現在は第二王子の近衛に任命されて、レイノルドに仕えていた。

 ヘンリーは、ツカツカと部屋に入ってくると、マリアに向かってお辞儀をした。

「ごきげんよう、マリアヴェーラ様。王子サマもおはよう。もう十時だけど、朝食を温め直す? それともお茶にする?」
「どちらも後だ。お前が俺を起こしにくるときは非常事態だろ」