「手紙は来てるか」

 レイノルドがたずねると、デスクワーク中だった側近は立ち上がって、執務室のすみに置かれていた文箱をあさった。

「本日のレイノルド殿下宛の手紙は十六通。ほとんどが貴族からのご機嫌うかがいで、殿下ご本人に観覧していただく必要のある文書は二通です」
「聞いてるのはそっちじゃない。マリアヴェーラからの手紙だ」

 苛立たしげに問い直すと、側近は残念そうに首を振った。

「ジステッド公爵家からの手紙は届いておりません。渡し忘れはないか、部下に確認に行ってまいりますか?」
「……もういい」

 あきらめて自分の机に戻る。ギギッと音を鳴らして背もたれに寄りかかると、窓越しに夏めいた青空が見えた。