マリアは、熱をもった頬を冷ますように両手を振った。
 化粧を直すために顔を注視されていただけなのに、てっきりキスされると勘違いしてしまった。

「マリアヴェーラ様、こちらをお使いください」
「ありがとう」

 侍女に差し出された手鏡を受け取ったマリアは、直された顔を映してみた。
 目元には、太いアイラインが引かれている。ナチュラルさは消え失せてしまったが、確かにマリアの美貌は先ほどより際だっていた。

「それでは、デッサンから始めましょう。先ほどの体制のまま動かないでくださいね」

 気を取り直してスツールに座ったクレロは、荒く削った鉛筆を取り出して、マリアの輪郭をキャンバスに写しとっていく。
 マリアは、腹筋に力を入れて体制をキープしながら、溜め息をこぼした。

(流されてしまったわね。ミゼル様になんて説明したらいいかしら)

 そんな悩ましげな表情も写し取られているとは――それにクレロが心をかき乱されているとは――マリアは少しも気づかないのだった。