「こんなものかしらね」

 マリアは、デコルテの大きく開いた深紅のドレスを着て、姿見の前に立った。
 ネックラインから腰元にかけて、薔薇のモチーフが大胆にあしらわれており、幾重ものドレープで飾られたスカートも相まってゴージャスな一着だ。

 こんなキツい色とデザイン、本当は好みじゃない。

 けれど、肖像画に求められているのは気高く、他を圧倒するような美しさを持つ〝公爵令嬢マリアヴェーラ・ジステッド〟の姿だ。
 マリアの趣向とは正反対でも、この装いが正解だった。

「髪はコテで巻いてアップスタイルに。髪飾りにはドレスと同じ色の薔薇を用意して。真珠のピースもあったわね。髪全体に散らすように挿してちょうだい」

 ドレッサーに座って命じると、侍女たちが三人がかりで想像通りの髪型に仕上げてくれた。
 首には、大粒のダイヤが鈴鳴りになったネックレスをかけ、耳にもそろいのイヤリングを付ける。