(どうして、わたくしは期待してしまうの……)

 うつむいたマリアを一瞥して、レイノルドはマリアの父であるジステッド公爵に顔を向けた。
 口髭をたくわえた父は、王家のシーリングが押された手紙をマリアに読み聞かせる。

「王妃殿下より、第一王子アルフレッド殿下が断行した婚約破棄について謝罪をいただいた。さらに、第二王子レイノルド殿下との縁談までくださった。こんなにありがたいことはない!」

 父が大喜びするのも無理はなかった。
 第一王子とマリアの婚約が取り消されたという話は、一晩のうちに社交界に行き渡っているはずだ。公爵家とつながりを持ちたい求婚者が殺到する前に、第二王子との縁談をたしかなものにしておくに越したことはない。

 だが、肝心のマリアの心は、まだアルフレッドのもとにあった。
誰と結婚するにせよ、考えさせてほしい。