マリアはそれを見て幾分ほっとする。
 こんな最悪な日でさえ、自分はいつも通りの『高嶺の花』だ。

 扇を手にとり、青いドレスのスカートをつまんで応接間に向かったマリアは、執事が開けた扉をくぐった。

「お待たせして申し訳ございませんでした。レイノルドさ――」

 片足を引くお辞儀をして顔を上げたマリアは、椅子に腰かけた王子を見て言葉を切った。

 一瞬、アルフレッドがいるように見えたのだ。

 刺繍の入ったロングジャケットに、ネッカチーフを合わせる着こなしは、彼が良くしていた。背格好はほぼ同じで、整った顔立ちもそっくりだ。
 だが、どれだけ夢を見ようとそこに座っているのはレイノルドである。当たり前だ。いくらアルフレッドでも、婚約破棄した令嬢の家にのこのこ来るわけがない。

 そんなことはないと、分かっているのに。