「あ~~れ~~」

 押し流されて建物の正面から右に、そして真後ろまで押しやられる。

「も、申し訳ありませんが、押さないでくださいませ!」

 呼びかけてみるが周りも必死。マリアは川に落ちた浮き草のように流れ流れて、時計台の正面に戻ってきてしまった。

「ひ、人混みってこんなに大変なものなのね……」

 人の流れの外に抜け出したマリアは、ゼイゼイと息を乱して肩を上下させた。
 舞踏会で三曲踊ったときよりも体力の消耗がはげしいとは、待ち合わせデート、恐るべし。

(流されている間に、レイノルド様の姿は見つけられなかったわ。まだここに来ていらっしゃらないのかしら? それとも、わたくしが見落としているだけ?)