取り皿に銀のフォークを投げ出した一人の少女に、令嬢たちは好奇の目を向けた。

「ネリネ様は、第一王子の婚約式典にご出席されておられましたわね」
「当然でしょう。あたしは、この国でたった一人の〝聖女〟なのよ?」

 肩先で切りそろえた髪を手で払ったネリネは、預言の力を持っているとして、王家に召し抱えられている。

 大きな吊り目が印象的な小柄で、子猫のように無邪気な愛らしさを持った少女だ。聖女らしく白いドレスを身につけているが、お淑やかと言うより気まぐれそうな雰囲気が強い。

 庶民の出ながら貴族の子息が集まる学園に通っていて、婚約こそしていないものの第二王子レイノルドとの結婚は確実だと、社交界で囁かれていた。

「アルフレッド様にフラれたから、今度はレイノルド様を誘惑するなんて、ジステッド公爵令嬢ははしたないわ。あんなの高嶺の花じゃなくて、枯れどきを知らない毒花よ。あたし、あんな女を未来の国母とあがめるなんて嫌! あなたたちもそうでしょう!?」
「ええ。もちろん」
「私たちはみんな、ネリネ様の味方ですわ」