「見当が付かないなどとよく言えたな。すべてお前のことだぞ、マリアヴェーラ!」

 力任せに投げつけられた調査書の束が、宙でほどけて書斎に紙の雨を降らせた。

「社交界に耳を傾けてみろ。どこもお前の話で持ちきりだ。第一王子から婚約破棄を告げられたジステッド公爵令嬢は、復讐のために第二王子を誘惑して求婚させ、裏で手を回して第一位の王位継承権を取り上げたのだと! ジステッド公爵家を〝泥棒猫の家〟だなどと言う民草もいるそうだぞ!!」

「口さがない連中だこと」

 酷い言い草にマリアは笑ってしまった。だが悪評を正そうという気は毛頭ない。

 第一王子に婚約破棄されたのも、入れ替わるように第二王子に求婚されたのも、彼が王位継承権第一位となるように暗躍したのも、本当のことだ。

 復讐のためではなかったが、顛末《てんまつ》は同じ。
 今さら何を訂正する必要があるというのか。