『これはさ、魔法の傘なんだよ。』

大学受験を控えていた兄が、どこにでもあるような紫色の傘を触りながら楽しげに笑う姿を今でも忘れられない。



2年後、大学2回生の春に兄は“魔法の傘”を置いてアメリカへ交換留学にいってしまった。


私が魔法の傘を手にしたのは、兄と同じ大学に進学して最初の雨が降った日だ。
母に私の傘は壊れていたから、と渡された久々に見る兄の傘に、心がぐらっとした。
あまり使いたくなかったが、予報通り大学から家に帰る頃には水溜りができかけていた。

雨が落ちてくる。

少し寂れて開きづらい傘をさす。

(魔法の傘というのならーー。)






どうか、お願い。

あの人への気持ちを諦めるきっかけを

私にちょうだい。











コツン…パタ。


あめが落ちてきた。