「ねぇ、君なんでしょ

 最近この辺りで起きている火事を起こしているのは。」

青年の口から飛び出したとんでもない言葉。しかし少女は、その言葉に全く動揺する様子は見せず、「そうだよ」と一言返すだけだった。
もはやこの空間を『常識』で測ってはいけない。2人にしか分からない、掴めない雲の様な関係は、静寂をより濃くしている。
青年と少女が互いに会話を交わす間に挟まれた静寂は、痛いくらい冷たいものになっていた。風ですらも動揺して、先程よりも強く轟いている。
その風に煽られた噴水は、青年の後ろ姿を移す。波紋によって青年の後ろ姿がザワザワと揺れ動いているが、青年は少女から一切目を逸らさない。真っ直ぐな目線であった。
そんな表情を見て何かを悟ったのか、少女は一旦青年から離れ、振り向きながらこう言った。

「貴方も、『あの世』に行きたいんでしょ?
 なら、私が連れて行ってあげる。もうこの世で一人ぼっちになる事はない、大切な人が待つ空
 の上に行きましょう。
 これ以上、亡き人を思いながら生き続けるのは、辛いでしょ?」

そう言いながら、少女は笑っていた。言っている言葉と表情が全く釣り合わない上、その言葉に対して、青年は何の反応も示さない。
「そう言うと思った」とでも言わんばかりの、相手を憐れむ表情。その表情を目の当たりにした少女は、だんだんと苛立ち始める。
少女は、青年が怯える姿を望んでいたのだろうか。それとも、彼女の質問を風の様に擦り抜ける彼の態度に嫌気が刺したのか。
少女の顔は、一瞬で鋭くなる。そして少女の心境の変化を見届けた青年は、ようやく立ち上がって、彼女が先程出した提案に、断言を下した。