死にたがりな君と、恋をはじめる


私は田中の視線から逃げるように、うつむきがちでいう。






前にされたこと?


あんたが私のキーホルダーをトイレに流したことを言っているの?



それとも、みんなの前で濡れ衣をかぶせられたことを言っているの?







……忘れるわけ、ない。



あんなことをされて、忘れるわけ、ない。







怒りがこみあげて、ぎり、と拳を握りしめた。


知らぬ間に爪をたてていたようで、血がにじむ。







「ふふっ、そうだよね。だから……何もされたくなかったらおとなしくしといてね?」


「……わかってる」







通り過ぎざまに言われて、私はこくんと頷いた。



田中がいなくなると、私ははぁーっと大きなため息をついた。







「やっと行ったな、あの糞野郎……」




私が唇の端でそう呻くと、その姿を見ていたレイは、ぽつりと呟いた。





『あのさ……』


「え?」


『俺、思ったんだけど、奈月って……』





レイの真剣な表情に、次の言葉を待っていると、キーンコーンカーンコーンと

予鈴のチャイムが鳴り響いた。






気が付けばあたりに生徒の姿はなくて、たぶんもう遅刻ギリギリだろう。