死にたがりな君と、恋をはじめる




「いくら友達によいしょされても、いじめなんてくだらないことしたら、自分の価値を下げているみたいだから。……別にあんたが可哀そうだからとか、そんなんじゃないから」








「田中……」














私は目を伏せた田中に、ジーンと胸に温かさを感じた。













そして、ふと口元に笑みを含んだ。















「別にあんたのためじゃないんだからねって……田中ツンデレキャラみたい」





「は、はぁ? うざ……私もう帰るからっ」















私の言葉に田中はかぁっと顔を赤らめ、それからベンチから立ち上がる。










そしてこちらを振り返り、少し迷うような仕草の後小さく手を上げた。













「……じゃあ、また明日」










「え……あ、うん。また明日――……」
















私は少し放心してしまった後、ハッと我に返り、その背中に向かって声をかけた。















び、っくりした……。田中って、本当にツンデレキャラ?








いじめをやめるように言っただけなのに、ここまで関係が修復されるとは……。
















驚いてしまったけど、それからじわじわと喜びがわいてくる。














口元が緩んでしまって、両手で隠した。
















勇気を出して、一歩を踏み出すと、いいことがあったな。









正直言って、明日がどうなるのかは、とても不安だ。









田中が約束したからと言って、その約束を守ってくれるとは限らない。










契約書みたいなものを書いたわけでもない。














……それでも。















勇気を出した結果がただただうれしくて。












私は沸き上がる喜びに身を任せていた。













『奈月、どうだった?』








「レイ……」










ふわ~とレイが空中から浮かんできて、私は上目遣いに見上げた。