「父親が死んだのは、高校に入ったばかりの時なんだ」
「へえ」
静かな声に、私は田中の隣に座り込んだ。
「へぇって……。冷た。人の心ないんじゃないの」
田中がちらりと手の隙間からこちらを見上げてきて、私は田中から視線を外した。
「そんなこと言われても、私にはそんな経験ないし。悲しみようがないから」
すると、田中はハハッと乾いた笑い声を漏らして、空を見上げた。
「……そういうところだよ。私が嫌いなのは」
小さく呟かれた言葉に目を大きく見開いた。
今の……何だろう。
私のそういうとこが、嫌い……?
私も田中も黙ってしまって。
急に静寂が訪れた。
校舎裏ということもあって、ベンチには濃い影が伸びていた。
田中の言葉を待っていると、田中はやるせないようにため息をついた。
「……すごく、好きだったのに。いなくなっちゃって、私は悲しくて、お父さんがいない日々を過ごすのが苦しくて」
「……」
田中の声には深い悲しみがにじんでいて、私は沈黙する。
ため息交じりに言う田中は嘘をついているようには見えなくて、目を少し細める。
……こんなにも亡くなって悲しまれるなんて、いい父親だったんだろう。
……やっぱり、うちとは違う。
私にはそんな父親なんていたことがない。
田中は私のことを羨んでいるけど、私の方こそ、田中が羨ましいよ。


