「キャー!」



もう世間体(?)を気にしてる場合じゃない。もうイヤです。絶えられ
ません。ここにもし布団があったら私間違いなくかぶってます。傘は
私の手から離れて力なく落ちていき、私は耳をふさいでその場にしゃ
がみこんだ。
きっと目には涙も浮かんでる。桐原がすぐ近くにいるかと思うと顔を
上げられない。ガキだなーとかいってバカにされるかな。桐原には弱い
部分を見られたくなかったんだけどな。


「ほら」


だけどそんな私に差し出された桐原の左手。戸惑いながらもその手を
とると、桐原はぐいっと私の手を引っ張ってしっかりと立たせた。
そして私の手をぎゅっと握ってこういった。


「大丈夫だから」


雷がどっか行くまで一緒に待っててやるよ、と桐原がいった。その横顔は
いつも私が教室で見てるのとは違って大人の表情をしていた。『クラス
メートの桐原』ではなく『男の子の桐原』がそこにいた。
蓮見が雷苦手なのってさ、俺が英語苦手なのと同じようなモンだろ?そう
いって彼は笑った。


手を繋いだまま私たちは玄関に立って雷が止むのを待った。だんだん
音が遠のいて空も少しずつ明るくなり、桐原が手を繋いでないほうの
手を外に向かって伸ばし、雨が止んだかどうか確認する。


「さてと、そろそろ行きますか」


そういうと、桐原は繋いだ手をそのまま引っ張る形で歩き出した。
手を繋いで歩く私たちは周りから見たら付き合ってるように見えるの
だろうか。こういうのってイロイロとまずいんじゃないの、と聞いたら
なんで、と桐原に軽くかわされた。


「…今日はありがと」


「いえいえどういたしまして」


「今日のお礼に今度マックぐらいなら奢らせていただきます」


マックねえ、とちょっと考え込む仕草を見せる桐原。何ですか、せめて
スタバにしろよとでもいいますか。


「マックはいいからさ、その代わりにひとつ俺のいうこときいて」


そういってちょうど分かれ道のところで桐原が立ち止まる。何だろう、
今年いっぱい英語のノート写させろとかいうつもりかな。それとも授業中
先生に当てられそうになったら必ず起こせとか。
だけどそんな私の単純思考は桐原の一言で一気に吹っ飛んでしまった。





「明日から、『ゆりか』って呼ばせてよ」





それはいつものやんちゃな桐原の、最高の笑顔を独り占めした瞬間。



見上げれば、空は快晴。