連休明けの9月23日、放課後の生徒玄関で私は立ち尽くしていた。
天気予報で午後から雨が降ることは知ってた。だからちゃんと傘だって
持ってきた。
だけど今頭上で繰り広げられている光と音のちょっとしたショータイムは
私にとっては迷惑以外の何モノでもなくて、時折響く轟音には耳を塞ぎ、
閃光が走ると目を瞑っていた。もう9月なのになんで雷雨?この際どしゃ
ぶりになってもいいから、雷だけは頼むからどっか行って下さいお願い
します!


「…蓮見?」


突然の雨に外で部活動をしていた生徒がぞくぞくと走って校舎に戻って
きた。その中に桐原や他のサッカー部員の姿もあった。


「誰か待ってんの?」


雷が怖いから鳴り止むのを待ってるの、なんていったら絶対バカにされ
ると思った私は、あーうん、ちょっとね、と適当に受け流すと桐原は
ふーん、といって私の横を通り過ぎた。


「友也ー、本降りになんないうちに帰んねーと髪の毛クルックルになる
から急げよー」


「今井先輩うるさいっス」


桐原と今井先輩の掛け合いに思わず笑ってしまったら、それを見ていた
桐原の口元が『笑ってんじゃねーよ』と動いたように見えた。こんなやり
とりができる私は遠くで桐原を見てるだけの女の子に比べたらなんて贅沢
なんだろう。



それから15分後、まだ私は玄関から出られずにいた。そりゃ出られる
わけがない。さっきよりも光と轟音の間隔が短くなってきている
(=雷が近づいてる)んだから。もうホント勘弁して下さい。


「…まだいたのかよ」


振り返ると制服に着替えた桐原が不思議そうな顔をして立っていた。


「…うん、ちょっとね」


「ソレ、さっきもいった」


あ、そうだっけ。いやその、ホントはせっかく教室以外の場所で桐原と
一緒にいるんだし楽しくいつものように話をしたいんだけど、どうしても
自然のバックミュージックが気になって顔がひきつる。


「あ、あのね、雨が止むのを待ってようかなー、と思って」


「蓮見が右手に持ってんのは傘じゃないの?」


「……」


「もしかして蓮見って、」


そのとき、不意をつかれるようにして閃光が走った。思わずぎゅっと
目を瞑ってしまった私を見て、桐原の予想は確信に変わる。だって今
ニヤっとした。


「雷が怖いんだ」


「べ、別にそんなわけじゃ」


私のことはいいから早く帰りなよ、といったら桐原は俺傘持ってねーし、
といって玄関のドアに寄りかかる。いっそのこと自分の傘を貸して無理
やり帰ってもらおうかとも思ったけど、やっぱりやめた。
しばらくの間雷は鳴らなかった。桐原が少しだけ外に出て雨がどのくらい
降ってるのかを確かめる。私ももう峠は超えたのかな、と思って少しだけ
気が緩んでた。だけどまだ傘なしで帰るにはキツイわ、といって桐原が
中に戻ってきた瞬間に桐原の後ろがピカッと光って、そのすぐ後に今までで
いちばん凄い轟音が響き渡った。