「じゃ、あたし、あっち戻るわ」

麻莉姉のドスの効いた声が、場の空気をバッサリ両断した。

「おっ」

龍平さんが無理に笑って明るく返すと、麻莉姉はすぐに背中を向けて俺たちの輪を去っていった。

思わず綾香と目が合う。
シンと静かになる俺たち。

「あいつら、別れたの？」

龍平さんが小声で言う。

「みたいですね」

そう言いながら、チラッと綾香を見ると知ってる風だった。

やべえなー、とモゾモゾしていたら、タイミング良く仁さんがゴールするのが見えた。
仁さんはこの上なく疲れた様子で力なく歩いてる。

「あいつ、おせー」

龍平さんは笑いながら仁さんの方へと向かう。

俺は綾香と目を合わせる。

「別れたって聞いたの？」
「うん、さっき、仁さんに会って」
「そっか」

自然と下唇を噛んでいた。
そんな俺の顔を楽しむようなイタズラな笑みで綾香が覗き込んでくる。

「不安？」
「不安だねー」

そう答えると、照れ臭そうに綾香は笑った。
もう俺は、綾香に隠す感情がないことを知る。