静かな廊下。
経年劣化を感じさせる染みのついた赤いじゅうたんの上を、スリッパペタペタさせて歩く。
女子のフロアは一つ上だ。
エレベーターを過ぎて、陰にある階段を使う。

仁さんと麻梨乃さんは揉めてるんだろうか。

きっと仁さんは別れる気ないだろうし、別れたとしても、きっと私と付き合うことはない。
私も麻梨乃さんに討ち勝とうだなんて微塵も思ってない。

薄暗く古臭いままの階段は、この旅館の予算の回らなさを感じさせる。
ぐるぐるとぼんやり上って、また廊下に出る。
部屋はそこから近かった。

鍵を回し、ドアを開けると、キレイに布団が四つ並べられていた。
誰もいない部屋。

幸せだー。

私は電気もつけず布団の上にダイブする。
すべすべの白い布団カバーがひんやり気持ちいい。

ああ、このまま寝てしまいたい。

仁さんが喧嘩しようが別れようが、私にはきっと関係のないことだ。

目を瞑ると、意識はどんどん布団に吸い込まれていく。

私は何もしていません。

私は何もしていません。

コンコン、と気のせいか音が響いた。
眠りかけていた瞳を開ける。

コンコン、とやっぱりまたノックが鳴る。

私はゆっくり上体を起こしてドアに向かった。

「はーい」と、ドアを開ける。
穂乃果かな。