「好きだよ」

その口調はさも当然のような空気を持っている。
挨拶くらい、ごく普通のテンションで悠人は歩き続けながら言った。

やっと私は駆け足で悠人の隣に並ぶ。
悠人の歩き続ける足は止まらず、ひたすら駅の出口に向かう。

「もっと年上の美人に恋焦がれてると思ってた」
「誰だよ」
「4年とか」

少し早歩きの悠人がふふっと鼻で笑う。

悠人は私を見た。

「俺、綾香のこと好きだよ」

お土産の看板がひたすら続く通路。
キャリーケースを引く人々。
すれ違うサラリーマン、家族、恋人たち。
ガヤガヤと賑やかな中で、この悠人の言葉を真正面に受け止めてるのは今、私しかいない。

「ありがとう」

硬派と軟派。
私の中で二人が混ざり合う。

悠人はさらっと周囲を見回す。

「別に今こんなとこで言うつもりなかったから、またちゃんと言うよ」
「うん、分かった」

何が「分かった」だろう。
でも、悠人は私の答えを求めていない。
私がそもそも聞いただけだ。

悠人には少し悪いことをしてしまったと思うけど、繋がれた手を悠人は離すことなく、出口へと歩き続ける。

仁さんの車が到着するまで、悠人と手を繋いでいた。
少しだけ、仁さんが来るのが遅くてもいいと思った。