「仁!?」

鼓膜に響く麻莉姉のハスキーな声。

「すみません、俺です、悠人です」
「悠人!?」

麻莉姉に嘘つけるわけないじゃん。
共犯ってことだろ、それ。

俺は横目で仁さんを見る。
大丈夫、大丈夫、と頷いてる。
何が大丈夫なんだよ。

「仁さんと今、大学向かってるんで」
「まじで悠人ん家泊まってたの!?」
「はあ、ええ、まあ」

麻莉姉の圧に、思いっきり押される。
怖え。
強え。

「じゃあもういいよ、仁に代わって」

何故か俺が怒られるように言われた。
すぐ仁さんにスマホを返す。
仁さんは嫌そうな顔をする。

自業自得だろうが。

「だから、今日そっち行くから。分かった、バイト終わるの待ってる。迎えに行くよ」

都合のいい言葉が次々出てくる。
仁さんは「はあー」とため息を吐きながらやっと電話を切った。

「授業終わったら一旦家帰んないとな」

仁さんは実家だ。
きっと実家の車で麻莉姉を迎えに行くんだ。

「マメっすね」
「優しいよね、俺」

優しいって言うのかな。

「そのうちバレますよ」
「大丈夫だって、バレねえよ」

そう吐き捨てる横顔を見て、なんで、女はこんな人に心惹かれるんだろう、と思う。

でも分かる。
俺にはない器用さが、仁さんにはあるから。

また俺は昨晩の出来事を思い出してしまった。