仁さんはいつもフラッと私の家に来るようになった。

「今ゴンさん家から帰るとこなんだけど、今日泊めてくれない?」

電話口でそう言われると、すぐ泊めてしまう自分。

「じゃーん」

ドアを開けると片手にコンビニの袋を持って、そう差し出してくる。
普段絶対夜食べるのが躊躇われそうなバターと砂糖たっぷりと思われる悪魔のデザートを、「なんか期間限定らしいよ」と全く悪びれる様子もない。

二人並んで小さなテーブルを囲む。

「なんで麻莉乃さんのとこ行かないんですか?」
「ここに来ちゃダメ?」
「いや、そういうんじゃなくて」

その後に続く言葉に悩む。
そういうんじゃなくて、なんなんだろう。
ここに来てくれるのが嬉しいのは確かだし、一緒にいる時間は楽しい。

でも、「うまく行ってない」と言う割に別れてくれない。
私が見てる時はいつも二人仲良くて、高い壁に覆われているようだ。

隣から細い指が私の前髪を掻き分けてくる。

「はい」

プラスチックの小さなスプーンの上に、プルプルとバランスとって盛られたクリームたち。

私が口を開けると、中に入れてきた。

不思議な恋人ごっこが続いてる。
まだヤッてない。
泊まっていくけど、そこまではないまま。

「おいでよ」

仁さんが自分の両足の間に私を引っ張る。
私はそこに入って、仁さんの胸を背もたれにする。

「はい、あーん」

二人羽織みたいにぎこちなく私の口に運ばれるデザートたち。
仁さんは甘いのがそんなに好きじゃない割に、いつも二人分買っては残すから、1.5人分は私が食べることになる。

麻莉乃さんが「仁、甘いもの食べないからなー」と言っていたことを思い出した。