「悠人」

その目で私を見ないでよ。

「お願い、見逃して」

ああ、自分の馬鹿。
私の両手からやっとボールが放たれる。

「お願い」

悠人がボールを取って私のところに近づいてくる。
ジッとその高さから見下ろされる。

「やだ」

悠人が少しだけ口角を上げてそう言った。

「ダメなことはダメだよ」

まっすぐに説教してくる、この人。

分かってるよ。

「やめろよ」

息苦しい。
心が頑なに、悠人の言葉を受け付けない。

「別に、遊びでもいいんだよね」
「ふざけんなよ」

悠人の口角がサッと下がって、顔から笑顔が消えた。
私の空っぽな笑顔が虚しく固まる。

ほんと私ふざけてる。
ダメなことくらい、ずっと知ってる。

大切な友達を一人失った気がした。

分かってるよ。
仁さんは麻莉乃さんの大切な人で、私が入り込める相手なんかじゃないってこと。

悠人はボールを私に突きつけるように渡してくると、トイレへと姿を消した。