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せっかくメークをしたけれど、船見くんが声をかけてくれることはなかった。


放課後のトイレであたしは大きくため息を吐き出した。


鏡に映っているあたしは相変わらず誰だかわらかない。


「たった一度失敗したくらいで諦めちゃダメだよ?」


隣にいる咲子があたしの肩を叩いて言った。


「わかってるよ」


だけど、どうしてもため息が出てしまう。


だって教室に入ってすぐ女子生徒たちは声をかけてきてくれたから。


それなのに、船見くんは全く声をかけてくれなかった。


それが引っかかっていた。


「それよりも、自分でメークできるように頑張らないと」


「うん」


あたしはうなづき、咲子のメーク用のポーチを見せてもらった。


安いブランドでそろえているというし、自分でも買えそうだ。


ポーチの中にはピンク色だけじゃなくて、オレンジ色のメーク道具も一式入っている。


そしてそれらは沢山使われた後があった。


「咲子はオレンジ色を使ってるんだね」


「うん。オレンジ色を使うと元気に見えるんだよ」


咲子はそう言って笑う。


確かにそうかもしれない。