「ねぇ、転校生だってさ」

 「男子?女子?」

 「美人願う‼︎」

 「頭良いのかな?」

 「イケメンらしいよ」

 「男って事じゃんか」

 「イケメン女子の可能性も‼︎」


クラス中が転校生の話題で持ちきりだ。私はあんまり興味ないんだけど。どんな人かなんて正直どうでもいい。変に関わる気もないし。

「転校生だって、舞」
「うん」
「気にならないんだ?」
「別に…」
 
座間 羽音(ざま はのん)は幼稚園からの幼なじみだ。羽音はフレンドリーで誰にでも好かれるタイプの子。しかも成績優秀。スポーツ万能。羽音に欠点なんてない気がする。

それに比べて私、山水 舞(やまみ まい)は至って普通である。テストはいつも平均点、スポーツは特別出来るわけでも出来ないわけでもない。得意なこととか、個性とか、そういうのは見つけられていない。

——キーンコーンカーンコーン——

朝のチャイムだ。羽音はとっくに席についていた。ほら、やっぱり優秀なんだ。

「今日は転校生を紹介する」

クラス中がざわつく。私は窓の外の景色から秋を感じる。やっぱりここの席が好きだ。

「志田 藍です。隣町から引っ越して来ました。趣味はダンス、特技もダンス、マイブームはダンスです‼︎」

クラス中がざわつく。このざわつきは、なんだろう。多分、この転校生の整った外見でざわついてるのと、あと一つ、きっとインパクトの強すぎた自己紹介のせいだ。

「ただ、この学校にはダンス部がありません。だから僕はダンス部を立ち上げます‼︎」

変な転校生だ。やっぱり関わるのは危険だ。

「ということで志田くん。分からないことがあれば…あぁそうだな、学級委員の座間に聞いてくれ」
「はい」

——キーンコーンカーンコーン——

早速転校生の周りに人が集まる。

「志田くんってダンスやるの?」
「ああ、そうなんだよ」
「かっこいー!」
「ありがとう」
「ダンス部志田くん立ち上げるんならさ、私入るよ〜‼︎」

転校生は最低限の愛想を振りまいている。あんなクレイジーな自己紹介をしといて、なんなんだあいつ。

「…い…まい…舞‼︎」

気付くと羽音が目の前にいた。

「何ぼーっとしてたの?」
「あ、いや…変な転校生だなって」
「あぁ、面白い人だよね」

志田 藍…。この先私と彼の人生が交わることはないだろうと思う。今日も穏やかな1日になるはずだった。いつも通りつまらない授業をそれなりに真面目に受けて、トランスメイクソンのトップソングを聴きながら帰る。そうやってまた明日が来るはずだったんだ。