（ジェラール陛下のフロックコート、温かい。それに、香水のいい匂いがする）

　この温かさは、脱いだばかりなのでジェラールの体温が残っているからだろうか。すんと香るベルガモットの香りとじんわりと広がる温かさに、まるでジェラールに包まれているようか感覚がした。

「初めての舞踏会は、つまらなかったか？」

　ジェラールが静かに問いかける。

「いえ。初めてのことで、何もかもが目新しいだけです。美味しそうな料理も、皆様の素敵な衣装も、煌びやかな会場も、私には素敵すぎて──」

　──遠い世界のように思えます。

その言葉は最後まで告げることができず、ミレイナは言葉を詰まらせる。

　ジェラールはミレイナの表情を窺うようにこちら見つめていたが、ミレイナはなんとなく目を合わせることができずに視線を落とした。
　ジェラールはそんなミレイナの手を取る。