「ここ? すごい!」

 初めての高位貴族のお屋敷への招待に、興奮が高まる。

 馬車はそのまま進み、両開きの立派な門をくぐる。
 長い通路の向こうには、通路と繋がる玄関を中心に両翼に広がる邸宅が見えた。その通路の両脇には屋敷の表を飾る庭園が広がり、美しく植栽がされている。
 馬車が停まると、すぐに使用人が屋敷の中から出てきて案内してくれた。

「マリベル様、ミレイナ様、ごきげんよう。ようこそいらっしゃいました」

 玄関ホールで、スザンナが笑顔で出迎える。

「ご招待ありがとうございます」

(えっと、お土産って今渡すんだよね?)

 礼儀作法の特訓を思い返し、ミレイナは持って来た焼き菓子の箱を取り出す。

「これ、気に入ってくださればよろしいのですが」
「まあ。この包装は、あの人気店のものね?」

 スザンナはミレイナの取り出した包みを一目見て、それが城下で人気の菓子店のものだとわかったようだ。

「はい。セシリア様にご相談したら、ここのがよいのではとお勧めいただき、手配してくださいました」
「わたくし、ここのお菓子は大好きだわ。ありがとうございます」

 スザンナはミレイナの手渡した箱を胸に抱いて微笑む。