「それはよかったわね。それにしても、ミレイナ様は陛下からとても気に入られていて羨ましいわ」
「そんなこと──」

 そんなことないです、と言いかけてミレイナは口を噤む。

 ジェラールが自分を気に入っていて、ただのメイドに向けるのとは違う思いを抱いてくれていることは誰の目にも明らかだ。
 先ほど、出かけ際に会いに行った際のジェラールの甘い微笑みが脳裏に甦る。

(すんなり開放してくれてちょっと拍子抜けだったな)

 と、そこではたと我に返る。

(拍子抜け? 私、ジェラール陛下にもっと強引に迫ってほしかったってこと?)

 抱きしめられたことも、キスされたこともちっとも嫌じゃなかった。むしろ、唇にキスをしてくれなくて、少し残念にすら思った。
 自分の心の奥底を垣間見た気がして、じんわりと頬が熱くなる。

「ミレイナ様、着いたわよ。あそこ」

 ひとりで赤くなったり青くなったりと百面相していたミレイナに、マリベルが声をかける。
 マリベルが指さすほうを見ると、通り沿いに長い塀が続いているのが見えた。白塗りの塀の向こうには、規模は違えど、まるで王宮を彷彿とさせるような立派な建物が立っている。