ジェラールの側近であるウォルトはラングール国有数の名門貴族であり、その妻であるスザンナも当然高位貴族だ。平民であるミレイナが呼び捨てなどしていいのだろうか。

「お願い! せっかくお友達になったのに、様付けだと距離があるようで寂しいわ」
「じゃあ、スザンナ」

 スザンナはその途端、嬉しそうに相好を崩す。

「美味しいお茶を用意しておくから、楽しみにしていてね」
「はい。楽しみにしています」

 ミレイナは笑顔で頷いた。

    ◇ ◇ ◇

 その日はジェラールが執務の合間に魔獣舎にやって来た。ミレイナが、気分転換に一緒に散歩に行かないかと事前に誘っていたのだ。

[ゴーラン! ジェラール!]
[こっちだよ!]

 相変わらず、魔獣達はジェラールとゴーランが大好きだ。シェットとイレーコが遊び場と外を隔てる柵に前足をかけ、呼びかける。

「待たせたか?」
「いえ、大丈夫です」

 ミレイナはすぐに出かける準備をして、四匹の魔獣達を連れて歩き始める。