「はい」

 閉まっていたドアが開かれ、ひとりの背の高い男性が現れる。

 上質な貴族服に身を包み、少し長めの前髪から覗くのは髪と同じ黒い瞳。
 清潔感のあるこの男性はジェラールの側近であり、ミレイナにこのレッスンを受けるように指示をした張本人であるラルフ=レイリックだ。

「ジェラール陛下のもとへ」
「え? もうそんな時間?」

 時計を見ると、想像していたよりも一時間くらい遅かった。忙しすぎて、あっという間に時間が過ぎてしまう。

「調子はどうですか?」

 ラルフは穏やかな口調でミレイナに問う。