「午前0時まであと3、2、1」私はカウントダウンしてから鐘が鳴ったのと同時に宙を舞った。ここは国王の住む城。私はこの国に恨みがあって死ぬのではない。ただ単純に自由になりたかっただけ。しかし私の行動を邪魔するものは必ずいる。「待て!!」ほら、もう追いついたのか落下しながら振り返ると案の定この城の主の息子、王子がいた。「何故だ!なぜお前まで来るんだよ!」と私は叫んだ。
「死ぬな馬鹿者!!」と彼は返す。「馬鹿はどっちだ!」と私。下には中まで見えそうな透き通った湖がある。「待て!サンドリオン!死ぬな!」と王子。「黙れ馬鹿者!この状況で言うんじゃねえ!」と私は怒鳴り返した。私の計画では湖に落ちた後魔法が解けて私は元の村娘になる。そしたら友人の騎士の元へ行き脱走する予定だった。騎士の彼、実は海賊なのだ。最近お金が足りなくて稼ぎに出ていた。ちなみに私は、海賊に雇われた殺し屋だ。湖が近ずいて来た。王子には悪いが死んで貰おうと私は胸元から銃を取り出すと、王子の心臓に狙いを定めた。殺す。そう思った瞬間王子の周りが光り輝いた。光が無くなるとそこには見慣れた黒髪、整った顔、全てを吸い込むような黒い瞳、意地の悪そうな口元、間違いない。あれは私の知っている彼。伝説の海賊ギルバート。「ギ、ギル!!」と私。「なんだ、俺を殺す気か?」といつもの薄笑いの表情で彼は言った。「クソッ!騎士団に入ったんじゃねーのかよ!」と私は悔しそうに吐き捨てた。私たちは、湖に落ちることは無かった。何故なら私が落ちる予定の場所にはなんと"ワニ"が居た。「....ヒッ!!」息を呑み銃を放り投げる私。ギルは私が宙に放った銃を素早くキャッチしてワニに狙いを定め、銃は火を噴いた。ワニは恐ろしい断末魔を上げて湖の底に沈んで行った。ギルは無事地面に着地したが、私はそのまま湖の中にワニと一緒に沈んでしまう。さよなら、ギル。私、貴方のこと好きだったのよ。最後の言葉を彼に言いたかった。私は貴方に出会う前から貴方のことが好きだったと。私がまだ17歳の頃、殺し屋の仕事が無くて暇だった私は、港で船を見ていた。突然、海賊に襲われた。私は必死に抵抗し、襲って来た5人中3人を殺した。しかしあと2人が予想以上に手強かった。死ぬかな...そう思った瞬間体が宙に浮いた感覚がした。上を向くと私が幼い頃から憧れていた海賊ギルバートが私をお姫様抱っこしていたのだ。
そして、「なかなかやるなお前。」と呟き、「お前、俺のとこで働かないか?」と言われた。それが、私とギルの出会いだった。懐かしいなぁ。これが走馬灯ってやつ?死ぬ前に見るっていう。そう思っていると、「やめろ!!」とギルは叫び恐ろしいスピードで湖に近づく数センチのところで私を受け止めた。「ギ、ギル...」と私。「死ぬなサンドリオン。俺は...俺はお前を失うと生きて行けない。仕事にも手がつかない。分かるか?この気持ちが。」と彼は言った。
「分かんないっす。あと、仕事はちゃんとやれよ。部下に示しが付かねえだろ(笑)」と私は笑って言った。本当は知ってるし分かっている。しかし、ちゃんと言葉で聞きたかったのであえて知らないフリをした。「はあ...まったくお前は、どこまで鈍感なんだ...いいか、俺は!!お前のことが好きなんだよ!!」と彼。ようやく言ったかと思ったが、1個引っかかる点がある。確かこの前飲みに行った時、彼は恋人は作らないと言っていた。それは嘘なのだろうか?
一応聞いて見よう。「恋人は作んないんじゃ無かったのか?」と私が聞くと、「そう思っていたけど、お前の存在が俺を変えた。いや、狂わせたの方が正解かな?」と彼。
「な...なんで?」と聞いた私の声は掠れていた。「心配だったんだよお前が。色々と危なっかしいし、初めて会った時だって、お前誰かに守られたことなんて無いだろ?ずっと戦って生きてたって感じがして、なんか無性に守りたくなった。でも、お前の職業が殺し屋って分かってから..その..守りたいって気持ちが大きくなっていつも無事に帰って来ることを願ってたんだ。帰って来て馬鹿みたいな話をして笑って、たまに喧嘩もしてって感じの毎日がずっと続けば良いなと思っていたんだ。だから...その...あああ!言葉で伝えるの難しい!とにかく!!俺はお前を絶対守るしお前のことはこれからも絶対離さない!分かったか!」と最後はやけくそに叫んだ彼。なんか可愛いと思ってしまった。「お前は...いつ殺されてもおかしくない状況に居るから、失うのが怖いんだ。」といつもの彼とは違う寂しそうな泣きそうな表情で彼は言った。「私は殺されないよ。だって貴方専属の殺し屋だもん!死ぬ訳無いじゃん!それと、私も貴方のこと好きよ」と言った。キャラ変が半端ないけどこれが本来の私だ。人前では言わないというか言えないが、私めっちゃ乙女なのだ。彼を見ると驚いた顔をしていた。「お前、今めっちゃ可愛い。」とボソッと呟いた。「よし!!覚悟があるなら着いてこい!地平線の果てまで冒険しよう!」
そして、「俺たちの愛は永遠だ。結婚しようサンドリオン。」と彼は言った。「もちろんよ、ギル。」と私も返した。そして彼は私に優しく唇を重ねた。その出来事を祝福するように城から色とりどりの花火が打ち上がった。
たくさんの星々が煌めく夜空に打ち上がる光の花が見えなくなるまで2人は空を見上げていた。