君じゃなきゃ。



あたしの声を聞いてハッと我に返ったように先輩は

「いや、なんでもないんだ。忘れて」

と、笑ってきた。


……無理に作られた笑顔が見ていて苦しい。


先輩は気分を変えるかのようにあたしに話題を振ってきた。


「あっ相川さんはどうやって知り合ったの?彼、営業課の杉浦くんだよね?」

「はい、そうです。あたしが営業課から企画課に異動するときに代わりにやってきたのが彼だったんです」

「じゃぁ引き継ぎのときに?」

「そうです。でも先輩が健人……彼のこと知ってるとは思いませんでした」


いくら先輩も営業課にいたことがあるとはいえ、あたしと一緒に働いたことさえもないんだから。

健人のことを知ってるなんて思わなかった。