君じゃなきゃ。



駅の時計を確認すると22時半を過ぎた頃。

とっくに定時を過ぎているとはいえまだ残業している人はきっと何人かいるはず。


「あたし会社に戻る……」

「え!今から?」

「たぶん……まだ誰かいると思うから会社は開いてると思うんだ」

「止めた方がいいって。さっきも言ったけどホント危ないよ?!」

健人は真剣な顔つきであたしを覗き込んでくる。

「うん……でも結構近いし!走ってパパッと行ってくる!帰ったらメールするから!」


走り出そうとするあたしの腕を掴んで健人が引き止めた。

「待って!俺も行くよ!」

「大丈夫だって!じゃぁ、おやすみ!」


引き止めてくれた手を軽く払ってあたしはヒールの音を響かせて会社に向かった。