「そうじゃないよ。あたしは仕事を進めたくて早く行ったんだから……」
人前じゃあまり健人に触れないあたしだけど今はなんだか触れたい。
いっそ抱きしめてしまいたい。きっと母性本能がくすぐられているんだ。
あたしはそっと健人に向かって手を伸ばして優しく頬に触れた。
お酒の入った健人の頬はじんわり温かかった。
「……さくら……」
あたしの言葉を聞いて安心したのか、健人は静かに微笑んだ。
「そうだよね……さくらは仕事、大事にしてるもんね」
そう言って健人の頬に当てているあたしの手に自分の手を重ねて指を絡ませてきた。

