刻は遅かれ早かれ、流転する。

我々はその流転する刻によって生かされているのだろう。

「………泣いても遅え、喚いても遅えんだよ。」

冷徹な声が飛翔──……否。作り立ての綿飴見たいに溶け消え、霧散する。

その様を自身は唯、傍観していた。

「…………何時だって手前等は畏怖にゃ勝てねぇんだよ。なぁ、だから諦めろって」

確かに傍観していた、筈であった。何故、過去形なのかと言うと、だ。

「あー……はいはい。判っーた、判っ……判ったからよ、なぁ。だから怒んなって」

先輩の喉先に───。当てていたからだった。

「……………憤って何か無…皆無です。」

黙する。数分経過してから誤魔化し、偽る。

「否、否々!それは流石にねぇぞ。手前、思いっ切り刃、当たってたかんな!?俺に」

偽る。と言っても、だ。相手は先輩であるが故。此方の方が経験不足なのは明瞭。言わずもがな…である状況には変わりはない訳なのだが。

………『不覚』。その一言に尽きるのではないか。

否。しかしながら、だった。

これも常套手段だろうと思ってしまったのだ。

勿論一種であり、比喩としての思い、だが。

「………先輩の気の所為、では。」

兎にも角にも煩わしい。肚の中で煮ていた方がまだ幾分かは良い、と思う程には。

煩わしい、と思う。思いを悟られぬ様に平然を装いながら、先輩を一瞥。

如何やら、まだ収集が付かぬのか喚いている独り、喚いている。

「あ、手前、あれだろ!認めたくねぇ奴だろ!?」

流石に梵論(ぼろ)──本音が出そうだった。

此の儘では行けない、と思ったが吉、懸命な判断だ。そうに違いない。と思う事にした。

「…………御先に失礼致しますね。帰還して報告書を作製しなければ行けないので」

些か、先輩には悪いと思うが。これも事を遂行する為。

冷酷非道でなければ成らぬ。

何て、無理難題な話、滑稽極まりないと矢張り、思わなくはない。が、それとこれとは話が別なので良いとしよう。

自身の中で嚙(か)み砕き、整理しつつ。

先輩の眼前を颯爽と通り抜けて行く。

後方から聞こえる怒号を無視して。

「!手前っ!逃げんなっ!」