石造りの門扉をくぐって物陰に入ったルルは、大きく息を吸い込んだ。
 みんなが期待する『王女ルルーティカ』――毛布に包まって毛玉になるようなことは一切ない――を体現するため、息すら忘れて歩くことに集中していた。

 苦しそうにゼーゼーするルルの背を、付き添ったアンジェラがさする。

「ルルーティカ、歩きながらでも息ぐらい吸っていいんだぞ」
「息をしながらシャンとするなんて、器用な真似はわたしには無理! いつなんどき、巣ごもり生活のうちに体に染みついたカーブが、表に出てきてしまうか分からないもの!」

 一歩踏み出すごとに、ぐにゃんと丸くなっていく王女。
 その姿を写真に撮られると思うと、想像するだけで冷や汗がでる。

 ルルの体には、一度折り曲げた紙のように毛玉状になる癖がついているのだ。
 ジュリオの対抗馬になりうるご立派な王女に、そんなだらしないイメージを付けて、国民を失望させるわけにはいかない。

 理想は、背筋をシャンと伸ばし、目は斜め四十五度の角度で伏せ、口元は微笑みをたたえて、しずしず無言で歩くこと。これが以外と難しいのだ。