「てめえら、ゆるんでんじゃねーぞ! そんなんだと、ジュリオ陣営に負けちまうだろうが! あっちは一角獣の保護地を視察したとか、枢機卿を集めて会談したとか、継承に向けて動いてるのに、なんでこんなのんびりしてるんだよ!」
「詳しいのね、アンジェラ」
「市場に買い出しにいくと、その話で持ちきりなんだよ。カントの住民は、ジュリオを信じていいのか揺れてんだ。あいつが聖王になったら、ガレアクトラ帝国に従属させられないかって不安なんだよ」

 もしもジュリオが戴冠すれば、ガレアクトラ帝国は聖教国フィロソフィーの治政に口を出してくるだろう。自国が有利になるような方や仕組みを作る可能性もある。

 そういう意味では、修道院に籠りきりで実力未知数なルルーティカ王女の方が国民の支持は受けやすい。だが、あちらが枢機卿という一大勢力を味方につけているかぎり、こちらが不利なのは変わりなかった。

 ノアは、目を守る火よけを退けて、暖炉の火をかき混ぜながら言う。