ノアがルルを抱き締めて、どれだけの時間が経っただろう。
 丸くならずに腕のなかにいた彼女は、たまにもぞもぞと身じろぎしたり、前に回されたノアの袖をきゅうっと掴んだりして、眠れない様子だった。

 振り向きはしないので、どんな表情をしているかは見えなかったが、リンゴのように真っ赤に染まる耳朶は、ノアの心を波立たせた。

(ルルーティカ様は、どうしてこうも、かわいい行動ばかりなさるのか)

 日用品の買い出しでも、そうだった。
 気になるものを見ると大きな瞳を輝かせるし、どんなドレスを着ても美しいし、パンを頬張る口元は無邪気で、無性に抱きしめたくなる気持ちを抑えるのが大変だった。

 ころころ変わるルルの表情を見ていると、ノアの顔はしどけなく緩んでしまう。聖騎士養成学校で、さんざん冷たいとか、感情が乏しいとか言われてきたのに。

 ノアをこんな風にしてしまうのはルルだけだ。
 ルルの笑顔を引き出せるなら、何だってしてあげたい。