マロニー地区の歴史と気候を頭に入れて、気になった箇所を頭の上に置いていたペンと紙に書き写していく。足下にあった手紙の束をたぐり寄せて、一通取り出して読み返して、うーんとうなる。

「もう少し掘り下げた方が良さそう。今日はこのくらいにして寝るわ。ノアは、いつまでそこにいるの?」

 ベッド脇に置いた椅子に座って、興味深そうにルルを見ていたノアは、「一晩いるつもりです」と答えた。

「屋敷にかけた魔晶石の効力は強いですが、いつ侵入者が来るともかぎらないので。朝になってアンジェラが起きるまではここにいます」

 アンジェラは屋敷の端っこにある使用人室で寝泊まりすることになった。
 ルルやノアの居室とは遠くて不便だが、下町育ちからすると薄暗くて狭いそちらの方が落ち着くらしい。

「夜通し起きているのは大変だわ。かといって、アンジェラは昼間にたくさん働いているから起こすのも忍びないし……そうだ! わたしが途中で代わるわ」