「動かなくて済むので、不健康そうに見えますが」
「動くだけが健康じゃないわ。心の平穏こそ健康の第一歩なのよ!」

 毛布から出たくないルルの脳がはじき出したベストなポジションは、背中の一番丸まった部分から約一メートルの場所。
 ここに私物を置くことで、寝るのに邪魔にならないし、必要なものはちょっと手を伸ばすだけで手に入るという、快適な環境を作り出すことができる。

「ただし、食べ物は持ち込まないのがマイルールなの。前に一度、ビスケットの籠を置いておいたら、毛布が食べこぼしの欠片だらけになっちゃったから」
「ベッドが惨事にならないようで安心しました。その本は、博士の書架からお持ちになったんですね。お勉強されるのですか?」

 並べている古書は、一角獣《ユニコーン》についての専門書と、聖教国フィロソフィーの地方文化史である。
 どちらも修道院の図書室にはなかったものだ。

「わたしは魔力を失っているとはいえ、一角獣と仲良いようにみせかけないと『聖王になる資格なし』って言われそうだもの。彼らの生態をよく知っておかないと」