「これが、ノアの言っていた強い魔晶石……」

 キルケシュタイン邸の食堂室の中央。見上げるくらい大きなガラスケースに入れられているのは、根元から折れた一角獣《ユニコーン》の角だ。

 色は黒っぽく、黒瑪瑙《くろめのう》の原石のように白い結晶がマーブル模様を描いている。
 形も特徴的で、キルケゴールのように額からまっすぐ伸びる角とは異なり、ゴツゴツした渦巻き状だ。羊の角にも似ている。

「悪寒を感じるのは力が強いせいかしら……」
「その角が、一角獣のものではないからです」

 腕をさするルルに、食堂室に入ってきたノアが声をかけた。手にかかえた銀盆には、湯気の立つティーカップが二つのせられている。

「それは『一角獣の王』と言われている二角獣《バイコーン》の角です。聖なる気を宿した一角獣とは対照的に、邪な気を宿しています。キルケシュタイン博士は、実地調査のさいちゅうに遭遇して、片方の角を折って屋敷に持ち帰ったそうです」