いくつも傷跡が残る手を包み込むと、メイドは顔を引きつらせた。

「離せよ。王女さまがこんな汚い手に触って、同情のつもりかよ」
「汚くないわ。これは、おうちが貧乏になっても、酷い主人に叱られても、暗殺者になってもがんばってきた手よ。あなたたちの苦しみを教えてくれてありがとう。お兄様が見つかったら一番に伝えるわね。あなたの名前をきいてもいい?」
「……アンジェラ」

 メイドの暗殺者――アンジェラは短く答えた。ルルの純粋さに当てられたようで、そばかすの浮いた頬をわずかに紅潮させている。

「ファミリーネームは捨てた。だけど、奉公先に行っても、暗殺者の身に落ちても、この名前だけは変えなかったんだ。だから、あたしはアンジェラ」
「素敵な名前だわ。さっそくだけど、週のお給料は金貨三枚でどう?」

 感動的な雰囲気から一転。
 ルルがいきなり交渉を始めたので、アンジェラは鼻にしわを寄せた。

「なんの話だ。あたしはここで殺されるんだろ」
「ルルーティカ様。王族の命を狙った者は、どんな事情があろうと処刑です」