「聖王とちがって、世間知らずの王女は簡単に殺れるっていうから、金貨十枚で引き受けたのに……。元締めのくそジジイ、嘘こきやがったな」
「どういうこと? お兄様もこんな風に命を狙われていたの?」

 メイドは、ルルを見上げると口角をニイっと上げた。

「イシュタッドの命はあんたより高いんだぜ。金貨二十だ。あいつが『一角獣《ユニコーン》保護法』なんて作るから、それまで魔晶石を加工して生きてた下町の職人は、仕事がなくなって貧乏暮らしになったんだ。それまでも、一角獣の角を売り物にする職人は卑しいって見下げられてきたけど、今日のパンにも困る暮らしじゃなかった。あたしが酷い奉公先に売り飛ばされたのも、暗殺者に落ちたのも、みんなお前ら王族のせいだ。暗殺されても文句は言えねえだろ」
「……そうね」

 一角獣の角からとれる『魔晶石』は、角をそのまま売買することもあれば、ブローチや万年筆の軸などに加工して売ることもあった。
 それらを作っていた職人は、聖王イシュタッドの新法によって生計を奪われてしまったのだ。怒りを買うのは当然だ。

 ルルは、メイドに近づくと腰を落とした。

「お兄様のかわりに謝ります。新しい法案ができなければ、あなたは奉公に出されることも、鞭で打たれることもなかったのだから」