お礼を聞いて自己嫌悪にくぎりがついたのか、ノアは腕を解いた。窓がコツンと叩かれたので見れば、レースカーテン越しに黒くて大きな影が見える。

「あっ、暗殺者!?」
「違います」

 ノアが背丈ほどもあるガラスを開けると、黒い角が部屋に突っ込まれた。
 半円形の広いバルコニーに立っているのは、体も翼も角も黒ずくめの一角獣《ユニコーン》だった。
 ルルはソファを下りてバルコニーに出る。

「ノアが乗っていた子ね。お名前は?」
「キルケゴールといいます。私が聖騎士になった頃からの盟友です。どうした?」

 キルケゴールは、首を回して折り畳んだ翼を見た。
 ノアが羽根の間をさぐると、新聞の号外が出てきた。

 騎士が握っていた、王位継承についての速報だ。

「ルルーティカ様に関係あるから持ってきてくれたのか。お前は賢いな」

 ノアは、キルケゴールのたてがみを手でポンポンと叩く。
 号外を渡されたルルは、その場で開いた。