騎士に引っ張られて、ルルは立たせられた。運動不足と疲れのせいで踏ん張りがきかないのだ。
 抵抗もできないので、せめて顔だけは見られまいと顔を伏せる。
 
(怖い)

 強く思ったそのとき、「うわっ」と悲鳴をあげて騎士の手が離れた。

「――触れるな」

 ノアの低い声がした。
 肩を抱き寄せられたルルは、気づけば彼の胸元に顔を押しつけていた。

「この方こそ私の主。無礼な真似をしたら許さない」
「なんだよ。ふざけただけだろ」

 凄んだ顔で睨みつけられた騎士たちは、興を削がれた顔で去って行く。
 騎士の姿が見えなくなって、ようやくノアは腕を解いた。

「もう大丈夫です。つぎは、私も見つからないように変装します。……ルルーティカ様?」
「な、なんでもないわ!」

 ノアに顔を覗きこまれたルルは、そそくさと距離をとってストールを頭から被った。
 守ってもらえて助かった。心から感謝しておわりのはず。

 それなのに。

(どうしてときめいてるの、わたしは)

 ノアに心を奪われたと認めたくなくて、ルルはお屋敷に帰り着くまで一口もしゃべらなかった。