人を生まれつき憎んでいる二角獣《バイコーン》が、危険を承知で助けようとしたあの日の、小さくて清らかな存在が膝のうえにいる。
 愛らしいと感じてしまうのは、もはや仕方がないことなのかもしれない。

 うすく笑うとルルに「なにか面白いことでもあった?」と問いかけられた。

「ルルーティカ様とはじめて会ったときのことを思い出していました。あのときから、私は貴方が聖王になるべき方だと思っておりました」
「一角獣の王であるノアに選ばれたのは光栄なんだろうけれど……、わたしはちょっとくじけそうよ。だって、聖王城にいると、ぜんっぜんゴロゴロできないんだもの!!」

 戴冠式の準備に追われるルルは、キルケシュタイン邸から聖王城に居を移した。すると、いやがおうにも『ルルーティカ王女』としての振る舞いを余儀なくされた。

 背筋をピーンと、それでいて、表情はいつでも微笑みをたたえて、修道院で祈りと慎ましさを身につけた王女らしく。
 素顔でいられる巣ごもり生活を実践してきたルルにとっては苦行だ。