招待状は、内定者の自筆で書かれたものを一角獣《ユニコーン》に運ばせて、返事をもらってくるのが聖教国フィロソフィーの伝統だ。
 そのため、ルルは連日のように部屋の机にしがみついて、世界中の要人へ手紙を書いていた。

 指先がインクで汚れているのを見つけてハンカチで拭うと、銀色の長い睫毛が持ち上がる。大きな瞳をこする主に、ノアは自然と優しい顔を向けた。

「おはようございます。ルルーティカ様。晩餐はまだですから、もう少しお休みになっていても大丈夫ですよ」
「そう……」

 ルルは再びノアの膝に頭をあずけた。
 乱れた前髪を手ですくと、古い傷跡が見え隠れする。ここから流れた血に触れなければ、生きた人間の温度を感じなければ、ノアは人の形をとったりしなかった。